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2011年3月12日土曜日

アフガニスタンの平和と発展のために - 国際イスラーム大学設立を目指して

アフガニスタンの平和と発展のために - 国際イスラーム大学設立を目指して


【3/11開催】同志社大学アフガニスタン平和・開発研究センター開設記念セミナー「アフガニスタン支援の現在と未来~大学はどのように貢献可能か~ 」


アジアの中央の要所に位置し戦略的重要性を有するアフガニスタンは国際情勢に翻弄され度重なる侵略に晒されてきました。19世紀から20世紀にかけてはロシア(ソ連)とイギリス、20世紀後半にはソ連(ロシア)とアメリカの間で繰り広げられたグレート・ゲームの中でアフガニスタンは独立を脅かされました。
多大な犠牲を払って(旧)ソ連の占領軍を撤退させたアフガニスタンは、その後悲惨な内戦に突入しましたが、20世紀末には、イスラーム学徒(ターリバーン)運動によるアフガニスタン・イスラーム首長国が国土の90%を実効支配し、サウディアラビア、アラブ首長国連邦、パキスタンから国家承認され、平和が訪れるかに見えました。ところが、2001年国連の支持を得た外国軍がアフガニスタンに侵攻し、アフガニスタン・イスラーム首長国政権を崩壊させ、アフガニスタンは、外国の進駐軍の支配下におかれ、再び内戦状態に陥ることになり、アフガニスタンの多くの民衆が犠牲になり国土は荒廃しました。
今日西欧が世界に強制している国際法上の判断はさておき、国際社会、特にアフガニスタンに侵攻した外国軍及びそれを経済的に支援した国々は、アフガニスタンに齎した甚大な損害を償う道義的責任を有すると我々は考えます。今日のアフガニスタンにおける外国駐留軍に対する反発の主たる原因は、内戦によってアフガン民間人の多くが犠牲になる、所謂「コラテラル・ダメージ」に対して、正義に基づく補償がなされていないことであり、この問題の解決は先ず、我々がアフガン人の尊重するイスラーム法に敬意を示し、その規定する一人一律千ディーナール、あるいは一万ディルハムのディヤ(血の賠償)の支払いを補償することから始めるべきかと考えますが、本日の本題はそこにはありません。

誰もが認める通り、アフガニスタンの平和と開発は、外国駐留軍とアフガニスタン政府に対する抵抗運動の内戦の終結なくしては訪れません。そして、現在の内戦は、カルザイ大統領自身さえも「外国が自分にこれ以上圧力をかけるなら、私はターリーバンに合流する」と述べた通り、ターリーバンがその抵抗運動の象徴となっており、抵抗勢力は、全てターリーバンと総称されるに至っています。
ターリーバンとは元々マドラサ(イスラーム宗教学校)でイスラーム学を学ぶ学生を意味します。つまり、現在の抵抗運動は、イスラームを拠り所に、「イスラームの教えに反する現状に対する世直し」、として正当化されているのです。ターリーバンの主張には、正当な点もあれば間違った点もあります。勿論、双方の見方、価値観が食い違って合意に達しないことも残るでしょうが、正当と認められる点、正せるべき間違いも多々あります。つまり、内戦終結にとっての急務は、アフガン人との「イスラームの言葉」による意思疎通を図ることであり、それには先ず我々が彼らの「イスラームの言葉」を学び、その後にその言葉を用いて我々の意図を伝えなくてはなりません。
国際社会は、アフガニスタンの教育支援に、「政教分離」という誤った思想に基づき、マドラサ(イスラーム学校)を除外して世俗の学校に支援することにより、マドラサに学ぶイスラーム学徒たちにイスラームを無視、軽視しているとの誤ったメッセージを伝え敵意を醸成してきました。あるいは更に悪いことにマドラサのカリキュラム「改革」と称して、現地の尊敬されるイスラーム学者を蔑ろにして西欧のイデオロギーをマドラサに押し付けたりもしてきました。内戦を終結させるには、こうした過ちを直ちに改め、マドラサで国際社会との共存を可能にするイスラーム教育が行われるようにする必要があるのです。
しかし、マドラサの改革にはマドラサで教える人材の養成が必要です。そのために求められるのが、国際イスラーム大学の設立です。
国際イスラーム大学は、イスラーム世界と欧米の対立の最前線において、相互共存の道を模索する場であり、アフガニスタンが対立の最前線であるが故に、アフガニスタンにおける成功は、イスラーム世界と西欧の共存の実現を保障するものとなるでしょう。
国際イスラーム大学には、大別して4つの目的があります。
第1は、アフガニスタンと同じスンナ派ハナフィー派法学(マートゥリィーディー派)神学を奉じ、西欧との共存を強いられる中で時代の要請に応えながらイスラームの教えを護る学的営為を重ねてきたトルコ、シリア、インド亜大陸などから、古典と現代の研究に通じたイスラーム学者を招聘し、イスラーム学の最新の古典研究の主体的な応用の場とすることです。
第2は、シーア派や他宗教の学者を招聘し、客観的に他宗派、他宗教の実態を学ぶことです。同時に彼ら、アフガニスタンに招聘された学者たちは、アフガニスタンのイスラームの現実を、外の世界に伝える役割も担うことになります。
第3は、イスラームの教えと調和した自然科学、技術、社会科学の教育です。開発に直接に役に立つ応用科学の教育機関はアフガニスタンの再建には不可欠です。幸い、欧米の近代諸科学とイスラーム学の融合の試みはマレーシアやパキスタンの国際イスラーム大学などに先例があります。
第4は、実は一番重要かつユニークな目的なのですが、ターリバーンのウラマー(イスラーム学者)たちの登用です。イスラームの教えではジハードは最も徳の高い行為であり、国家運営とジハードを経験したターリバーンのウラマー(イスラーム学者)は、イスラームの深い知識と理解を有する知行合一の高徳の学者としてイスラーム世界全域で尊敬される存在であり、国際イスラーム大学は彼らに本来の天職たるイスラーム学者の地位を提供する場になるのです。ターリバーンのウラマーだけではありません。旧ソ連の侵攻を退けたムジャーヒディーンたちも国際政治の深層に通じた貴重な歴史の生き証人として国際関係論の講座を担当することになるでしょう。
つまり国際イスラーム大学は、西欧の植民地主義的侵略に対してイスラームの教えを護り独立を勝ち取ったアフガニスタンの体験からのメッセージを世界に発信すると同時に、それ自体が、ターリバーンとムジャーヒィディーンをも包括する国民和解の場となるのです。
 同志社大学は2010年11月に、ワヒードゥッラー・サバーウーン大統領顧問を招聘し、アフガニスタン和平について討議しましたが、その後、サバーウーン大臣は参議院会館で、超党派の衆参両議員の有志に対して、国際イスラーム大学の設立を訴えました。国際イスラーム大学設立のアイデアは、昨年3月に小生がカーブルを訪問した時に、アルガンディワル経済大臣、ワヒードッラー・サバーウーン大臣、アターゥッラー・ルーディン上院汚職撲滅委員会委員長、元アフガニスタン・イスラーム首長国在パキスタン大使ザイーフ師らとの会談の中で彼らの希望を汲み取って構想したものです。その構想を具体化し文書化したものが、
サバーウーン大統領顧問が参議院会館で配布したアフガニスタン国際イスラーム大学設立趣意書であり、本年3月に同志社大学の招待に応じ来日したターリバーンの元外相ムタワッキル師からも原則的な賛同を得ています。 アフガニスタンに軍隊を送っていない国である日本への厚い期待が述べられているこの設立趣意書の日本語訳をもって、私の発表の結びとさせていただこうと思います。

     アフガニスタン国際イスラーム(IIUM)大学設立趣意書
2010年11月27日
 
序文
 アフガニスタンの人々がその長い歴史の中で、度重なる外国からの侵略からイスラームを守り、かつ一方ではホスピタリティをもって外国人をもてなしてきたことは世界中に知られています。
 しかしながら不幸なことに、外国の侵略とそれに続く内戦で、アフガニスタンは多くの住民の命を失い、またその大地と産業は荒廃してしまいました。今日では多くの社会的・文化的な問題が起こっています。また麻薬取引の問題などは、国際社会にとっての不安定な要素となってしまっています。

1 イスラーム教育改革の緊急性
 これらの問題を解決するためには、アフガニスタンの人々が立場、民族、宗教を超えて尊重するイスラームの正しい理解と実践以外にはありません。特定のムスリムの国において支配的なイスラームの解釈を導入しようとするのではなく、アフガニスタンの主流のハナフィー学派/マートリーディー学派のイスラーム諸学(`uloom shar`iyyah)を修めたムスリム知識人を育成することが、一刻も早く求められています。若い世代のイスラーム学者にとっても、イスラーム法理論を社会の現場に適用させる運用能力を獲得することが必要です。今、アフガニスタン社会は、グローバリゼーションに否応なく巻き込まれつつあり、新世代のイスラーム学者は伝統的なイスラーム科学と近代の世界的科学の両方に親しまなければなりません。

2 アフガニスタン国際イスラーム大学(IIUA)
 前述の目標を現実とするための最も望ましき方法は、アフガニスタン国際イスラーム大学(IIUA)の設立です。この大学は世界中からスタッフを募り、アフガニスタン政府の政策立案のシンクタンクとして、またアフガニスタンの若者、特にマドラサ(イスラーム学校)を含む中等教育機関の教師たちに対する訓練、教育に携わる教育・研究機関の役割を果たします。マドラサは近代の高等教育を受けた新世代のイスラーム学者によって改革されなければなりません。

3 IIUAのカリキュラム
 この大学の主眼は、アフガン人の大多数が属しているハナフィー学派/マートリーディー学派に則したイスラーム学(`uloom shar`iyyah)を主体的、あるいは実践的な研究と教育にあります。しかしながら他方で、この大学では、比較宗教学の客観的なディシプリンに則って、12イマーム派、あるいはジャファリー派のシーア派のみならず他の宗教を学ぶ講座も設けられます。マレーシア国際イスラーム大学のように、経済学、政治科学、薬学、工学などの西洋で発達した学問も、イスラームの教えと調和させた上で教えられるべきです。

4 イスラーム学者の東洋
 ハナフィー学派/マートリーディー学派に則ったイスラームの学問を現代の問題に対応できるようにするためには、ハナフィー学派/マートリーディー学派に則してイスラームを固く守り抜いてきたトルコとシリアのウラマー、イスラーム学者を優先して招くべきでしょう。しかしながら、歴史的な深い関係からインド/パキスタンのウラマー達、アラビア語教育のためにサウディアラビアやエジプトからの教師たち、そして非イスラーム文化に親しみ、またそれをどのように受け入れていくかを既に体験済みの非イスラーム世界に住む様々なムスリムの学者たちを招くことも必要です。

5 アフガニスタンの体験を世界に共有させる:平和構築のための学び
 この大学(IIUA)はアフガニスタンの外部から様々なイスラーム思想の潮流を取り入れるだけでなく、アフガニスタンにおいて深められたイスラーム理解を「発信」する場です。アフガニスタンは諸外国の勢力の侵略、干渉からイスラームを守り抜き、寛容さとホスピタリティをもって他者、外国人に庇護を与えてきたことを通して、イスラームの知識と実践を結びつけた、寛容なイスラームの学問に対する誇りを持っています。
IIUAは、アフガニスタン・イスラーム首長国(タリバン)のウラマー、学者たちを大学の教授として迎えます。IIUAは今はアフガニスタン・イスラーム首長国を指示しているイスラーム学者たちに雇用の機会を提供することで平和構築に貢献します。IIUAは実践を通じて、平和構築学の研究と教育の世界的な拠点となります。

6 女性への教育
 教育は、預言者ムハンマドが明言している通り、全ての男性/女性ムスリムの義務です。従って、この大学(IIUA)は男女平等に門戸が開かれているべきです。但し、女性はイスラーム法(シャリーア)に基づいて男性とは離されて学ぶことになるでしょう。

7 アフガニスタン国際イスラーム大学(IIUA)の国際委員会
 アフガニスタン国際イスラーム大学の計画と準備は、アフガニスタン国際イスラーム大学国際委員会によって行われます。この委員会はイスラーム世界の傑出した指導者たちから構成されます。彼らは政治的指導者、NGOのリーダー、調査機関のトップであるべきです。委員会はイスラームを背景に持つNGOや教育機関に協力を求めます。またアフガニスタン政府に土地とその使用の許可を求めます。

8 IIUA計画における日本政府の役割
 日本はアフガニスタンに一度も兵を送ったことはありません。加えて、日本はアフガニスタンの人々から、政治的に中立であるとの信頼を得ています。日本は、大多数のアフガニスタン住民から受け入れられる教育内容を持つアフガニスタン国際イスラーム大学の設立の先陣を切ることができるはずです。
日本政府が、アフガニスタンや世界に平和な未来を築かんとする他の援助国と協力しながら、カブールにアフガニスタン国際イスラーム大学を創設する計画のイニシアティブを取ることが出きることを希望します。

ワヒードゥッラー・サバーウーン
アフガニスタン・イスラーム共和国部族問題担当大統領顧問

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