2011年10月25日火曜日

アフガニスタンの和解交渉のためのロードマップ

アフガニスタンの和解交渉のためのロードマップ

1.両当事者が相互にその交戦相手をそれぞれの元首によって代表される組織化された政治的実体として承認するとの声明を国際社会に向かって同時に発表する。
2.和平交渉の代理人の選定。一人は、一方の当事者(米国)の元首(オバマ大統領)によって指名された代理人、別の一人は他の当事者(アフガニスタン・イスラーム首長国)の元首(「信徒の長(Amīr al-Mu'minīn)」 ムッラー・ウマル)によって指名された代理人であり、もう一人は、両当事者の代理人双方によって承認され指名された仲裁者になります。
3.両当事者は、その交渉関係者の安全が両当事者によって保証されるアドレスが与えられます。
4.交渉は両当事者のアドレスが置かれている国で、公認の交渉の代理人によって開始されます。
5.交渉は、上記の手続き的条件を除いて、いかなる実質的な内容を伴う条件をつけることなく開始される必要があります。
6.停戦、外国軍の撤退、現行のイスラーム共和国憲法の受け入れ、及びアル=カーイダとの絶縁を含めあらゆることが、(前提条件として排除されることなく)交渉の対象とならなくてはなりません。
7.交戦中も、(アドレスが確保され)交渉のチャンネルは開かれている必要があります。
8.アフガニスタン・イスラーム共和国とアフガニスタン・イスラーム首長国の地位の最終的決定は、両当事者によって合意文書が締結されるか、あるいは統治者を選ぶアフガニスタンのイスラームの伝統であるロヤ・ジルガの適切な手続きによってアフガニスタン国民の手に委ねられます。

1.問題の背景

(1)治安情勢は米国とその連合軍の侵攻によるタリバン政権/アフガニスタン・イスラーム首長国(実効支配1996 - 2001年。以後「イスラーム首長国」と略記)の2001年の崩壊以来日増しに悪化しています。イスラーム首長国は2001年に完全に支持を失ったにもかかわらず、その後、民衆の支持(もっぱら消極的な支持であるとしても)を回復し、今では国土の70%以上が、その支配下にあると言われています。
(2)アフガニスタンの国土の大半の治安を回復し麻薬取引を撲滅することが出来た政権は、首長国(統治の最終段階)だけでした。
(3)アフガニスタンでの反政府武装闘争の増加の主な理由は、ISAFの空爆などによる民間人の犠牲、いわゆる「巻き添え被害(collateral damage)」に対する民衆の怒りです。
(4)治安の悪化とタリバン(イスラーム首長国)の復活の主たる理由は、カルザイ政府とISAFの失政であるのは明らかです。 
(5)米国とその連合軍の侵攻によって、イスラーム首長国が民衆の消極的支持を失い脆くも崩壊したのは、その過酷な統治、民衆を苦しめた残虐行為のせいでした。しかし北部同盟の軍閥たちはそれよりも更に甚だしい残忍な人権侵害を行っていたのであり、そのために当時タリバン(後のイスラーム首長国)は瞬く間に彼等軍閥を追放できたのでした。

2.交渉のフレームワーク

(1)我々は準拠する共通の法体系を有しない2つの当事者間の交渉の枠組みを模索していることを自覚しなくてはなりません。イスラーム首長国が準拠する法体系は「シャリーア」、即ちイスラームの天啓法であるのに対し、カルザイ政権と米国の依拠する法体系は、実際には欧米の法律に他ならない「国際法」だからです。
(2)西欧の国際法とイスラームのシャリーアは確かに共通の要素を有してはいますが、それらの共通点は限られています。
(3)両当事者は、自己の準拠する法の適用を相手に強制することなく、本当の意味で「普遍的」な良識に照らして、アドホックベースで個別の問題の解決策を模索しなくてはなりません。
(4)両当事者は、相手方の領土内では相手の法が通用することを認め、相手方の領土内では相手方の法を敢えて侵犯はしないという消極的意味で、相手方の準拠する法に一定の「敬意」を払う必要があります。
3.問題
(1)ISAFの外国軍は西欧の治安を脅かすアル=カーイダ(al-Qāi'idah)と戦うとの口実でアフガニスタンを占領しています。ところがアル=カーイダの指導部と兵士はアフガニスタンではなくパキスタンにいることが今や明らかになっています。
(2)その主役がタリバン(イスラーム首長国)ムジャーヒディーンである反政府勢力は、西洋に住む西洋人に危害を行うために戦っているのではなく、そうした武装勢力自身を含むアフガニスタンの民衆を殺害している外国の侵略者の軍隊と戦っているのです。
(3)外国の駐留軍の存在に起因するアフガニスタンの民間人犠牲者の数はISAFの公式統計より遥かに多数にのぼっていますが、その多くは反体制武装勢力による外国軍とカルザイ政権に対する攻撃の「巻き添え被害」です。
(4)前ISAF司令官マクリスタル将軍が、アフガニスタンの民間人犠牲者のために一人当たり2500 ドルの賠償金を払うと述べた時、それが正義、平等、人道に明白に反していると思われたため、彼の発言はアフガニスタンの人々の激怒を買いました。
(5)理由が何であれ、犠牲者が内戦に苦しむアフガニスタンの民衆であることだけは事実です。
(6)アフガニスタンの援助の名の下に費やされている数十億ドルが実際には欧米企業やNGO要員、アフガニスタンの軍閥、政治家、そして彼らの縁故のビジネスマンのために消費されており、一般民衆が殆どその恩恵を受けていないことは、アフガニスタン国内だけでなく、海外でも広く認識されています。
(7)ISAFの外国軍だけではなくタリバンのムジャーヒディーンを主体とする反体制武装勢力の攻撃によっても無辜の民衆が犠牲になっており、タリバンを自称する一部のグループはイスラームに基づく抵抗の名においてアフガニスタンの民衆への残虐行為を行っています。
(8)「タリバンによる女子教育の禁止」のようにタリバンに関しては多くの誤解が存在します。(実際にその時点でタリバンによって一時的に禁止されたのは「女子教育自体」ではなく、適切な女子教育のためのリソースの不足に基づく「不適切な女子教育」に他なりませんでした)アフガニスタン国内だけではなく国際的にも公式なマスメディアは全て反タリバン勢力の支配下にあり、彼らがタリバンのイメージを歪曲しているからです。
(9)タリバンについて多くの中傷がある一方で、適切なイスラーム高等教育の欠如と厳しい監視の下にある秘密組織の常としての指揮命令系統の機能不全により、自称タリバンの反体制武装勢力のみならずタリバン(イスラーム首長国)の「影の政府」自体によってさえもイスラーム法と人権に対する多くの侵害が行われていることもまた事実です。
(10)「タリバン」は国民的な抵抗のシンボルとなっており、カルザイ大統領自身がかつてカンダハルで、西欧がこれ以上自分に圧力をかけ続けるならば自分はタリバンに参加する、と述べるまでに至っています。
(11)統計が示す通りアフガニスタン国民の90%がタリバンとの和解に賛同していますが、タリバンとの和解の必要性は西側陣営においてさえ感じられるようになっており、米国の政策立案者の一部(オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官を含む)はタリバンとの交渉を開始したと思われています。
(12)しかし、カルザイ政権内の一部の旧軍閥や政治家、そして所謂人権活動家たちは、多くの虐殺、残虐行為、人権侵害を犯したタリバンは政権に参加してはならないと主張し和解に反対しています。
(13)人権とシャリーアの法の侵害をイスラーム首長国が犯し、それらの侵害がまだ償われていないのは事実であっても、タリバンよりも酷い残虐行為を働いた旧軍閥たちがカルザイ政権で要職を占めているのです。

3.解決策

(1)アフガニスタンの現状の分析の論理的な帰結は、上記の諸問題の解決の唯一の方法は、アフガニスタン復興の名の下に途方もなく膨大な富を蕩尽したにもかかわらずまともな国家運営ができなかったことを自らが証明しているカルザイ政権と外国軍に代わって、国土の大半で「影の政府」を構成している反体制武装勢力の主体であるイスラーム首長国に安全保障と統治を任せるべきである、ということです。
(2)タリバンが犯した人権侵害を理由にタリバンの政権編入に反対する主張は退けられなくてはなりません。和平実現のために旧軍閥の犯した人権侵害が不問に付され政権に編入されたのと同様に、和平のためにはタリバンも受け入れられなくてはならないからです。
(3)和平は、(時間的に先行する)長く苦しい内戦に終止符を打ち平和と治安を実現したかつてのアフガニスタンの正当な「国民的」政権「アフガニスタン・イスラーム首長国」に、外国軍の力で支配の正当性を獲得した事実上の正当な政権「アフガニスタン・イスラーム共和国」が統合される形を採ることが望ましく、逆(「イスラーム共和国」に「イスラーム首長国」が統合される)ではありません。
(4)UNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)の役割は、上記の課題を解決し、イスラーム首長国にイスラーム共和国が統合されるまでの過程での平和的な権力の移行を保証するために、首長国を財政的、技術的に支援することです。
(5)イスラーム首長国と憲法の最終的な形は、適切な時期に、ロヤ・ジルガによって表現されるアフガニスタンの国民の意志によって決定されなければなりません。憲法は現行のイスラーム共和国憲法に必要な改正を加えたものとなります。
(6)UNAMAは人権とイスラーム法の認める人権に対する侵害が行われないように、イスラーム首長国の官吏のイスラーム教育の発展にフルサポートを提供しなくてはなりません。
(7)女性教育の開発は、社会慣習、伝統の類似性から、2010年の時点で大学の女学生の割合が56.8パーセントを構成するに至っているサウジアラビアの女性教育をモデルとすべきです。
(8)国家元首「信徒の長」の座はカンダハルであるとしても、政府の行政機関はカーブルに置かれ、カーブルは「国際都市」としての特別な地位を与えられ、そこでは外国人の非イスラーム教徒の庇護民(Ahl al-Dhimmah:永住権獲得者)と安全保障取得者(Musta'min:短期滞在者)はシャリーアの認める信仰と宗教の実践の完全な権利を享受することができ、イスラーム教徒のアフガン国民はアッラーに対する自己責任において彼らと交流することになります。
(9)国家の宗教は、「信徒の長」の臨席するウラマーゥ(イスラーム学者)の諮問機関によって定義されるハナフィー学派のクルアーンとスンナの正統な解釈によるイスラームとなります。イスラーム教の他の学派の信仰の自由は私的領域においては保証され、シーア派イスラーム教徒同士の間の訴訟は、シーア派が多数を占める地域ではでシーアの派カーディー(裁判官)に付託されます。
(10)行政機関の再編の過渡期中はISAF(国際治安支援部隊)外国軍がカーブルの治安維持にあたりますが、ISAFはイスラーム教徒の軍隊、即ちトルコ軍およびその他の国のイスラーム教徒の軍隊に再編されるべきであり、非イスラーム教徒の外国の軍隊の存在は彼らがセキュリティを担当する大使館の内部に限定されねばなりません。
(11)人権、自由、平等、そして自由民主主義を提唱する西欧諸国は、イスラーム首長国で生きるより西欧への移住を選ぶアフガニスタン国民を手続き的、法律的、財政的、技術的にサポートしなくてはなりません。
(12)イスラーム首長国は、自ら主張する通り、欧米諸国を武力攻撃する拠点としてアフガニスタンを使用するすべての組織と関係を絶ったことの挙証責任を負わねばなりません。
(13)かつてのムジャーヒディーン政権であれ、軍閥であれ、タリバンであれ、ISAFであれ、西欧の警備会社の傭兵であれ、加害者が誰によるかを問わず、内戦の犠牲者とその遺族の応報・賠償請求は放棄されなくてはなりません。但し、それぞれの国の軍法会議などで有罪の判決を受けた者はそれぞれの国の法律に則って処罰されます。
(14)応報の権利を放棄した内戦の犠牲者、遺族は補償されるべきであり、アフガニスタンの人々に受け入れられる正義に則り、内戦の犠牲者に対する補償は、他の資金援助に優先されるべきです。
(16)実際に武器を手にして戦っていたところを殺害されたとアフガニスタンの裁判所が判決を下した者を除くすべての犠牲者の遺族は、シャリーアに従って1万ディルハム(1ディルハム= 純銀3グラム銀)、あるいは1千ディーナール(1ディーナール= 22金4.25グラム)の賠償金を受け取ることが出来ます。この損害賠償は人間の尊厳と平等で信じる全ての者にとって受け入れられるものだと思われます。そして、それはUNAMAがイスラームの正義を尊重している証とみなされ、UNAMAが内戦の犠牲者の賠償のためにディーナール金貨、あるいはディルハム銀貨を鋳造すれば、UNAMAのイスラームの尊重の目に見えるシンボルとして、アフガニスタンの人々から大いに評価されるでしょう。